どんな世界にも専門誌・専門書はあるものだが、巷には意外と「ハッカー指南書」と言える本がたくさんある。
ハッキングをしてもハッカーたちは基本的に儲かったりするわけではない。手に入れた情報を売りとばして大儲けする、というケースはほとんどないのだ。
なのに、なぜ捕まる危険を冒してまで他人のパソコンに侵入しようとするか?
「そこに謎があるから」だ。
有名な月刊誌「ラジオライフ」は、創刊初期はAMラジオのリスナー情報雑誌だったが、次第に「警察無線の聞き方」などのいわば”裏情報”を乗せるようになり、IT関係も扱うようになった。
初期の内容で微笑ましいのは、森永チョコボールの「金のエンゼル」「銀のエンゼル」の出現確立を解き明かそうとしたものだ。
これがウケた。
つまり、そこに謎があれば解き明かさずにいられない、というメンタリティの持ち主が読んでいる。
これはハッカーの基本姿勢に通じる。
アップルの創業者の一人、スティーブ・ジョブズは元々ハッカーだ。
彼が1970年代に長距離電話をタダでかけられるブルーボックスという装置を、後にアップルで共同設立者となるスティーブ・ウォズにアックとともに作って売りさばいたのは有名な話である。
こうした電話の謎の部分や通話のメカニズムに精通したマニアは「フォーン・フリーク」と呼ばれたが、ジョブズはその走りだった。フォーン・フリークたちはパソコンが登場すると皆ハッカーに転身して、今度はパソコンの謎に挑戦していった。
謎やメカニズムに対する好奇心が彼らの根底にある。
そして、ハッカーたちのメンタリティとして根付いているもう一つの要因が、反権力、半資本主義である。1068年にオランダのアムステルダムで「世界ハッカー会議」があり、「世界ハッカー宣言」が出された。
内容は、「どんなものであれ、情報を媒介するツール、並びにシステムは全面的かつ包括的に無料であらねばならない」というものだった。
彼らにしてみれば、情報の出入り口には必ず権利や権力が絡んでいて、既得権益を持つものが跋扈していると思っており、それに対する反発がある。いわば”体制”に対する挑戦なのだ。気分は坂本龍馬なのだろう。
現在の権力や権利の体制が、彼らには幕藩体制に見えるのかもしれない。
ハッカーの世界で興味深いのは「攻撃側」と「守る側」が、紙一重であること。
スキルとしてはセキュリティを守る技術と、破る技術はまったく同じものだ。
では、攻撃側のハッカーにとって成功の形とは何か?
「本当の成功は、誰も知りようがないハッキング」
ルパン三世がダイヤモンドを盗めば、そこから”モノ”が消えるから犯罪は明るみになる。
しかし、ハッキングした痕跡すら残らないように情報を盗んでくれば、誰も気付かない。
そうなれば、企業のインサイダー情報を得て、株でこっそり儲けるということもできる。
そんな”完全犯罪”を夢想するのも、彼ら特有のロマンチシズムの一つなのだ。
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